2008/12/20

違いのわかる男

約1年前、某コーヒーショップのコーヒーセミナーなるものに行ってみた。
当時は、初級、中級、上級とあり、ほかにオリジナルブレンドを作ろう、というものがあった。
初級も中級も上級もすっ飛ばして、いきなりブレンドに挑戦した。
バカであった。
16種類のコーヒーをテイスティングして、混ぜ合わせて好きな味を作る、というもの。
それぞれの特徴は説明されるが、自分の舌と鼻がものを言う。
スッキリしたものから順に並んでいるが、香の差はわかっても、味の差はわからない。
両端を続けて飲めばわかるが、繰り返すうちに、それもわからなくなる。
粗挽きの豆に、お湯を入れただけで、フィルターを通さないから、器には、当然灰汁が浮いている。
その灰汁をよけてスプーンですくい、自分の紙コップに移し、ズズズっとすすって、濃いコーヒーを口の中にまんべんなく行き渡らせる。
舌全体で味わうためだ。
そんな濃いコーヒーを何度も、何種類も口の中に運べば、当然舌もバカになる。
一緒に来た会社の後輩は、「あぁ」とか「うんうん」とか、わかったような素振りを見せている。
他の参加者も同様だ。
一人だけ全くわからず、動揺しはじめた。
他の参加者たちは、どんどん自分のブレンドを決めていく。
わかったフリをすればいいのだが、ウソがつけない性分のため、
「わかんねぇ。全然わかんねぇ」を連発する。
すると、ブラックのエプロンをつけた店員さんが寄ってきて、丁寧にヒントを出してくれる。
それでも、すでにバカになった舌は、もはや反応しない。
勝ち誇ったような顔をした後輩が、
「は。さん、わからないんですか? 俺はもうできましたよ」
と突っ込んでくる。うるさい。
心配そうな顔をした店員さんを見て、ウソをついた。
「あ、わかったような気がする」
ほっとしたような店員さんの顔を見て、こっちが安心した。
面倒なので、最初に配られた資料を参考に、適当にブレンドした。
濃いコーヒーをあれだけ飲めば、胃がもたれてケチョンケチョンになる。
もう、どうでも良かった。限界である。
最後に、2つのテーブルに分かれて、それぞれから無作為に選んだ人の、オリジナルブレンドコーヒーを飲みながらケーキを食べる。実は、ケーキにつられてやってきた。
その前に、自分のコーヒーをブレンドしてもらうのだが、当然自分が最後だ。
何やら店員さんが首を傾げてヒソヒソやっている。
もしかして、マズイのか?
不安なので、聞いてみた。
「いいえ。今日のケーキには、これが一番合うんですよ」
??
自分のブレンドが選ばれたら、ちょっとおもしろいことになるかも、と思いながら、クジを引いたが、他の人のになった。残念。
そのコーヒーを飲みながら、ケーキを食べる。普通にうまい。何も問題はなさそうだ。
試しに、向こうのテーブルのコーヒーも飲んでみる。
なんだこりゃ。
マズイ。
コーヒーとケーキがケンカしている。
「あぁ、これ飲んで、やっと違いがわかった」
思わず口にしていた。
店員さんが笑いながら、良かったです、と言っている。

コーヒーショップを出た後、後輩と二人でラーメン屋に入った。
「さっき、わかったわかった、と言ってたけど、味の違いわかったの」
『そんなのわからないですよ。あの雰囲気じゃ、そう言うしかないじゃないですか』
バカなのは、やはり自分であった。

違いのわかる男になるのは、難しい。

は。

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